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茨城白菜栽培組合は、安全で、より地球環境にやさしい野菜の生産を目指して、 社員の環境修士・木村貴好さんが筑波大学 大学院農学研究科応用動物学で 「性フェロモンを利用した害虫防除」の研究をおこなっています! このコーナーで、彼の研究成果の一部をレポートとしてご紹介しましょう。
■その1. 害虫防除 レイチェル・カーソンの「沈黙の春」はご存知でしょうか。農薬といった分野に限らず、農業、環境問題、自然に対する考え方といった大きな範囲にわたって、「地球」という一つの世界を私たちに気付かせた著作です。発表当時アメリカでは、農薬の売り上げを脅かすといった感情から、「未婚の女性に典型的なヒステリー症」などのレッテルが投げつけられ、彼女の人格まで否定されるようなこともあったのです。 しかし、発表から30年以上たった今、大量消費、利潤追求・・・もうかれば何をしてもいいといった二十世紀の極端な経済のあり方に対する一つの防波堤になったことは明らかになりました。 殺虫剤の開発研究も「沈黙の春」以降、いかに人間や鳥、魚などに影響を与えずに、目的とする害虫に効果をあたえるかといった方向へ導かれるようになったことを考えると、農薬の母としての地位をカーソンに捧げても(本人はいざ知らず)いいように思えます。農業とは、一部の人のふところを富ます目的ではなく、必要以上の肥料・農薬マーケットでもなく、国の産業バランスの帳尻を合わせる所でもないのです。地球環境、人間としての幸福といったことへ、農業がいかに貢献できるかといった意識が必要となってくるのではないでしょうか。収穫祭が各文明に普遍的であったように、天地の恵みに対する感謝こそ農業を営みつづける原動力であったのだと思います。 さて本題の害虫防除も、一昔前の殺虫剤による根絶がクリーンな防除であるという消毒思想から、おおきく転換を迫られてきています。殺虫剤に虫が強くなってきている、薬剤散布によってかえって害虫が増えるといったマイナスの問題、加えて「環境にやさしい」「安全」といった在りようが新たな経済価値を生むようになってきているからです。 こうした動きをうけて、合成農薬のみで害虫を絶滅させる手段より、被害のさまざまな要因を総合的に考え、防除手段を組み合わせてもちい、経済的にも持続的な農業が営めるレベルで、害虫を低密度に管理するといった考え方に移りつつあるのです。この総合的害虫管理(integrated pest management, IPM)という理念は、日本でも1970年代にすでに識者によってとなえられていたのですが、正当的・中道的であるあまり、その普及に時間がかかったようにも思えます。 その中の管理法の一つとして、フェロモン製剤の利用があげられます。フェロモンは、種内で用いられ、同種の他の個体に情報を伝える化学物質です。名前はホルモンに似ていますが、ホルモンは生物の個体内で作用する物質で、人間の成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、植物のサイトカイニンなど多くが知られていますが、これらは個体の成長や生理に作用するものです。フェロモンはこれに対して、種を種たらしめている物質であり、極言すると種が用いるホルモンです。従来の殺虫剤はその農場にすむ害虫を食べてくれる天敵の数まで減らしてしまうものでしたが、フェロモン製剤は目的とする害虫のみの個体数を制御するために利用価値は大きいと考えられています。 メスがオスを呼ぶ性フェロモンの他にも、キクイムシが協力的に生活をするため同種を集める集合フェロモン、アリやアブラムシが危険を同種の仲間に知らせる警報フェロモンなど、フェロモンもその機能によっていくつかの分類がされています。
■その2. フェロモン研究の歴史 ”フェロモン”で検索してこのページに誘引されてしまった、その方面の方には申し訳ないのですが、少々まじめなフェロモンに関する話題です。フェロモンという名称は、ギリシャ語の「フェライン(運ぶ)」+「ホルマン(刺激する)」からつくられました。
そして、この離れたオスとメスの間になにが隠されているのかを調べるために4年間かけて、視覚、匂い、音などが通信に関係するのではないかと仮説をたてて確かめてゆきます。オスはメスの入ったガラスケースよりメスの匂いのついたかごや小枝に引き寄せられてゆきました。メスがオスをひきつける信号は、電磁波や匂いのような発散物という想定を固めてゆきました。 のちにフェロモンとして教科書に載り、実用化の研究がすすめられ多くの研究者が従事するようになったそのもとは、この南フランスの田舎にすむ老人の、未知なるものへの深い愛情から発していることは、心のどこかに留めておいてよいものです。 このメスとオスの異性間に介在するフェロモンは性フェロモンと呼ばれ、生物の個体維持をこえて、種の維持としての制約に関する強力な作用をもつものです。とくにガのような夜行性の動物に発達が見られるほか、近距離での種のマークとして大切な働きをになっています。 そして、この種内のコミュニケーションにはたらく物質を、単離・同定した人物は、性ホルモンの研究でも知られるドイツの有機科学者ブーテナントでした。ブーテナントは500 ,000匹のカイコから6.4mgの性フェロモンを単離し同定しました。ボンビコールと名付けられたこの物質は、後に化学的に合成され、自然物と同じくオスを興奮させる効果が確かめられました。こういった20年をかけて得られた一連の業績は生かす愛として、あとに多くの研究を生み出す力を持っています。他種の性フェロモンへの関心など基礎的な研究と、それとリンクして応用的な利用に対する関心の方向があるでしょう。
■その3. 性フェロモンの基礎的研究 そこでまずボンビコール以降の性フェロモンの研究の基礎的分野のいくつかを紹介しましょう。 多くのガ類は誘引剤である性フェロモンを、尾端の分泌腺より放出します。そのときにメスはおしりを高くかかげるコーリングという姿勢をとるものがあります。メスはいつでも性フェロモンを放出しているかといえば多くはそうではなく、種によって、このコーリングを行う時刻が決まっているものもあります。似たような成分をもつ種では、夕方にコーリングを行う種と、明け方に行う種と、活動時間帯を時刻ですみわけている例が知られています。昆虫の種類によっては体の表面の成分や、脚から分泌する成分が性フェロモンであるものもあります。 また、ある種の性フェロモンが、単一の物質のみである例はむしろ少なく、いくつかの成分から構成されていることがわかってきました。例えば、ハスモンヨトウの性フェロモンは、(Z,E)-9,11-tetradecenyl acetateと(Z,E)-9,12- tetradecenyl acetateの2成分が同定されています。両者は10:1の混合比で存在し、前者のように量が多く活性に不可欠な成分を主成分、主成分の誘引性を共力的に強める作用をもつ残りの成分を微量成分と呼びます。種によって微量成分は何種類も必要なものがあり、この微量成分の同定が、フェロモン製剤の実用化に大きくかかわってくることがあります。4成分を性フェロモンの構成に用いている種では、どの一つの成分が欠けても十分な効果を示さないこともあります。野外のトラップでは誘引されないようなことがあると、未知の微量成分がある可能性が考えられるのです。 この主成分と微量成分の構成比は、同じ種類でも地域によって大きく異なっている例があります。このことが、混合比を決定した研究でもちいた昆虫の採集地からはなれた農園では、あまり効かなかったという原因を生み出すこともあります。その半面、種の分化といった同種内の地域変化の拡がりとその変異の過程に対する考察に興味深い問題を提供しています。 さらに微量成分の働きに関しては、同じ成分を主成分にもつ近縁種でも、微量成分は異なる成分をもち、お互いにその微量成分が別種を敬遠させる効果をもつ例も知られており、微量成分のブレンドが性フェロモンの機能に様々な彩りを添えているようです。 また報告例は少ないのですが、ガのオスが性フェロモンをもち、逆にメスを誘引する種も知られています。オスの性フェロモンの機能には他に、近距離でメスをなだめたり、コーリングを中止させたり、交尾の受け入れを促したり、他のライバルオスを退けたり、自分の重要性をアピールしたり、卵の防御物質になったりと様々な報告がされており、統一的な見解を示すためにはこれからの研究がまたれるところと思われます。 性フェロモンに関して面白い例として三例ほど。ドクガの一種の卵に寄生するハチは、ガが交尾のために使う性フェロモンをたよりに寄生先を探しているということです。またサラグモの一種は、メスが性フェロモンを含んだ巣をかけオスを誘引します。すると最初に近づいたオスはライバルのオスが来ないように、巣糸を丸めてしまうそうです。そして交尾後のメスがかける巣糸には、性フェロモンは含まれていないのだそうです。クモといえばナゲナワグモは、網を張らず、先に粘液のついた糸をまるで投げ縄をまわすように振り、この動作で近くに来た獲物であるガを捕らえています。このクモは運だのみで縄をまわし、偶然通りかかったガを捕らえているのでしょうか。いいえ、この粘液にひかれてくるガの性フェロモンが含まれていたのです!これで6分に一匹という頻度で、ガを誘引しているのです。性フェロモンを利用しようと考えたのは、人間だけではなかったようですね。 ■その4 実用化に向けて 現在日本で防除用に実用化されているフェロモン製剤は約20種(1999年)です。400種の鱗翅目性フェロモンが同定されていることから考えると、まだ少ない段階にあるでしょうか。 性フェロモン製剤は、防除する害虫以外に影響を与えず生物への毒性は低いこと、容易に分解され環境汚染の心配がないこと、扱いが安全で簡単なことなどの利点があげられます。合成フェロモンを封じ込めた分解性のチューブを、飛行機でばらまく方法がアメリカのような広大な農地では用いられています。また、お茶のように、直接殺虫剤がふれることに抵抗が感じられる作物へは、利用が推進されています。 それでは性フェロモンは害虫防除としてどのように利用されているのでしょうか。 1) 大量誘殺法 まず性フェロモンの利用を思いつくとすれば、ゴキブリホイホ○のようなトラップを想像する方が多いと思います。性フェロモンでオスを誘引し、水や粘着板などで近づいたオスを殺し、次世代の発生をおさえる方法です。オスがメスよりも早く発生する種で特に有効です。日本ではハスモンヨトウ、ナシヒメシンクイなどで防除試験がされました。他にはサトウキビに被害を及ぼすコメツキムシに対して実用されています。 大量誘殺法で効果を出すためには高い捕獲率を必要とするため、実用に至っている製剤はいまのところ少ないといえます。 2) 発生予察法 しかし、この特定の種のみをターゲットに誘引することは、そのほとんどを集めて殺さなければ利用価値はないかといえば、そうでもありません。昆虫は、ほぼ毎年同じ時期に発生するとはいえ、年によっては寒い年もあつい年もあり、作物の生長と同じく変動があります。そこで害虫の成虫になる時期を知ることは、殺虫剤の処理を行う時期をつかみ、施用量・回数を減らすためにも大切です。以前は誘蛾灯などを用いた、ガが光に集まる習性を利用した予察がされていましたが、この方法では目的とする種以外のその他多くを捕獲してしまいますし、効率もあまり良くありません.。そこで、特定の種のみを選んで誘引する性フェロモンの利用が考えられたのです。発生予察用のフェロモン製剤は、40種ほどが登録されています。 これにより殺虫剤の使用頻度を下げ、より効率のよい時期に散布することができ、間接的に環境保全に貢献する方法といえるでしょう。 3)交信撹乱法 いちばん性フェロモンの特質を生かし、有効性をあげている使用法は交信撹乱法です。直接フェロモン源へ誘引する1)2)と異なり、高い濃度の性フェロモンを作地へ放出し、オスがメスを見つけにくくする方法です。オスは満たされた合成フェロモンで、いわば鼻がなれてしまい、メスの発見を撹乱されて交尾できない個体が増えます。そして次世代の発生数をおさえるといった方法です。日本では13種(1999年)の製剤が登録され、約10,000ha(世界では約400 ,000ha)において実用されています。 最初に交信撹乱剤が成功をおさめ、フェロモン剤の機運を高めた例は、アメリカのワタにつくワタアカミムシの防除でした。かつて年に2回ほどまいていた 殺虫剤が効かなくなり(虫がつよくなり)、10〜15回/年もまかなくてはならなくなりました。そこで殺虫剤とほぼ同額のフェロモン剤をもちいて交信撹乱をおこなったところ、次世代の害虫の発生を抑え、収穫量を増やすことが出来たのです。日本ではネギにつくシロイチモジヨトウの防除、ウメのコスバシバの防除などを性フェロモンでおこない明らかな防除効果が認められました。とくに一度実の中に虫が入ると殺虫剤が使用しにくい果樹への利用は、関心が高まりつつあります。フェロモンを満たすことが容易なビニルハウス等施設園芸においても効力を発揮するという考えもあります。 殺虫剤を使用する回数・量を減らし、環境におだやかで、生物のもつ特性を利用した人知を含む優雅な防除法として、天敵を利用した防除と並んで関心の高い防除法ですが、まだ問題も多い部分もあります。しかし、コストの問題が最重要なのではありません。需要の高いものが値下がらなかった事はないでしょう。フェロモン剤は昆虫の死骸が見られるものではないので、殺虫剤ほど効いているかどうかの判断がすぐわからないところに問題があります。フェロモン剤の特性は害虫の発生量を抑えるところにあり、全滅させることではありません。人体を含め環境への影響を考え、生産者と消費者の理解がひろまることによって、もっと大規模な利用と研究が待たれる分野であることは間違いないと思われます(ただし殺虫剤を危険視するような報道でいたずらに恐怖心をかき立てられることもないと思います。殺虫剤もいかに環境に影響を与えずに、害虫のみに効くような製剤を開発する方向で研究がすすめられていることも書き添えておきます) 。(第1回以上) (第2回へ)
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